乾いた街路樹の葉が、軽薄な音を立てて転がっていく。
それを追いかけていた、小さなひよこ色の仔猫は、ふと立ち止まり、首を傾げた。
歌が聞こえたような、気がした。
きょろりと辺りを見回す。
しかし誰もいない。
誰も。
「グリザベラ…?」
たどたどしく、呼び慣れない名を呼ぶ。
慣れない筈だ。親しく彼女を呼ぶ機会は、終になかった。
からからと乾いた音を立てて葉くずが舞う。
「バブ! なにしてんだ?」
唐突に現れたコリコパットに、シラバブは駆け寄り体を寄せた。
「歌が」
真剣みのある呟きに、コリコパットはその尖った耳をたてて辺りを探る。
「…なんにも聞こえないな」
訝しげな兄猫を気にもとめず。
シラバブはぐっと首を持ち上げて空を見た。
白っぽい青空には、薄い氷のような月が浮かんでいた。
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設定
第二段はCATSのヒロイン、グリザベラ。
当サイトは、特に書いて無い限りすべて舞踏会後の出来事です。
微かにその存在の証明が残りつつ、彼女の姿は街にはありません。
そしてその存在の証明でさえ、純粋な仔猫にしか気付かれません。
皆の記憶には残っているものの、あえて思い出す必要の無い思い出となっている模様。