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オールドデュトロノミー

例えば天気の良い昼に、例えば心にふと、憂鬱がとりついた時に。
猫たちはその姿を求め、さ迷う。
かの天の邪鬼、突っ張り猫と名高いラム・タム・タガーとて例外ではな

く。
明るい日差しの降り注ぐ至って健全な空気の流れる住宅街の外れをうろ

ついていた。
かの長老猫の姿をもとめ、住みかである人間の家から、日がな一日過ご

していると思われた教会に行き、タンブルブルータスに奇妙な目で見ら

れ、そして今に至る。
その珍奇な外見は人目をひいたが、彼はなに憚ることなく堂々と歩道を

行き、時折立ち止まっては辺りに視線を巡らせる。

「…見つけた」

日当たりの良い塀の上、どうやって登ったものか、一見しただけでそう

と知れるほどに年老いた老猫がだらりと体を伸ばして眠っている。
彼こそがオールドデュトロノミー。
猫たちの崇敬を集め、心の拠り所となっている猫である。
タガーは僅かに足に力を込め、ひらりと塀に飛び上がる。
大柄なタガーが側に並ぶと、老猫の短く擦りきれた毛並みに覆われた体

はいっそう小さく、しわくちゃに見えた。

「どうかしたのかね?」

くったりとした尻尾は動かなかったが、老猫はくぐもった、それでいて

はっきりとした声で尋ねる。

「別に。なんでもねーけど、じいさんが死んでるんじゃねえかとおもっ

てな。あんたになにかあるとうるさいやつが居るしな」

どうでも良さそうな、からかうような調子で放たれた言葉は、マンカス

トラップかタンブルブルータス辺りが聞けば問答無用ではたかれそうな

ものだったが、老猫は気分を害するどころか、ふっふ、と笑い、顔を上

げた。

「心配してくれてありがとう。ラム・タム・タガー」

「違えし」

眠いのか微笑んでいるのか、タガーを見つめる目は半ば閉じられていた

が、その目の色は深い時を経た樹液のような琥珀色。
自ら知ることはないが、己の容姿を誉めそやす人間や軽薄な雌猫の言葉

から、その色を受け継いでいることを知っている。

「お前の言葉から、無上の親愛を感じているよ。正直な言葉は鋭く切り

つけるが、本当を知っているならば、なんの問題もないのだよ」

「意味わかんね」

言って、タガーは老猫の体に寄り添い、座る。
穏やかな長老猫の匂いは日向そのもののようで、珍しくタガーは素直な

気持ちでうずくまり、父親の体に頭をすりよせた。


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オールドデュトロノミー
設定
というわけで、第一段は、誰よりも長く生きる長老猫の当サイトにおける設定。
彼はタガーの父親だと思います。
目の色が琥珀色ってのだけおんなじっていう。いやこれタガーの設定でも良いような?

そして舞台の姿に逆らって短毛で皮膚がたるんだような年寄り猫って感じです。
これはあの劇場で売ってる詩集の挿絵から。
たるんだ皮が柔らかそうな感じ。

飼われているって感じではなく人間の家を塒に、教会で過ごし、時々ぶらりと出掛けては塀の上とか道路の真ん中とかパブの入り口とか「死にたいのかジジイ!」と言いたくなるような場所で眠っている。


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