「いや、変わったな、と思ってな」
苦笑いと共に言った旧友は、再び視線をあげた時には姿を消していた。
言い逃げか。
含みのある物言いを、ランパスキャットは好まない。
単細胞とか、脳筋だとか、そんな風に言われる性質なのだ。
「ねえ、今のってカーバだった?」
「えっ、カーバ? どこっ」
尋ねるジェミマの言葉で初めて誰かが居たことを知ったシラバブが走りだし、ランパスは前脚で踏みつけた。
「もうどっか行っちまったよ」
「変わったって、ランパスのこと?」
言いながら、ジェミマはランパスの前脚をどけてやり、シラバブは慌てて横跳びに逃げるとジェミマの後ろに隠れた。
「そうらしいな」
「昔は違った?」
また始まった。
ランパスは顔をしかめてジェミマを見下ろす。
幼い頃からお喋りで知りたがりなこの娘は時々スイッチが入ったように質問ばかりする癖がある。
まだ小さい時分には適当に答えてもふんふんと納得していたものだが、最近は知恵がついてきたせいか、適当な返事をするとすぐに見抜いて怒りだすから厄介だ。
「俺は変わらんと思うがな。」
「カーバは? 昔と違う?」
「昔は、よく喧嘩して傷だらけになってたな」
間髪いれずにジェミマが「えーっ!」と金切り声で叫び、ランパスは顔をしかめた。
「カーバと喧嘩って、似合わない!」
「喧嘩は似合う似合わんでするもんでもないだろう」
「だって基本話し合いで解決しそう。それか、すぐ降参しちゃいそう!」
きゃっきゃと笑いながら、ジェミマが「ねえ?」と言うと、シラバブも真似をして「ねえ?」といって首を傾げる。
成程。
「そうか。そう見えるか」
彼女たちは知らないのだ。
あの、暗く、望みを捨て切ったような目をした彼を。
そのなかでぎらぎらと光っていたのは、生きることへの執着。
相手が死ぬまで喉に食いつき、僅かな餌をそれこそ命がけで得ていた姿。
あいつが黙っているのなら、あえて教えてやる必要もない。
知られたくもないのだろう。
「…違うの?」
ふ、と笑ってその場に倒れるように寝転ぶ。
こうすれば、会話も遊びも終わりだと、ジェミマは知っている筈だ。
「ランパス寝ちゃった?」
「そうね。うーん…バブ、行こっか」
ぱたぱたとかける足音は、小さく、快活で、そしてどこまでも健全だとランパスは思った。
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設定
年齢:37歳
よその街で生まれ育った、という話。
ランパスとは放浪中に知り合いましたとかそんなざっくりした事は考えてあるけど細部は考えてない。
誰とでもそこそこ愛想よく付き合うにもかかわらず、誰も彼について詳しいことは知らない。
あと、ランパスと喋るときだけ1人称が違うとか無駄な設定があります。
あんまり喋んないからわかんねぇよ。