貝のように小さな耳が、それを捉える事が出来たのは今この時間が深夜であることを差し引いても、奇跡に近いことだった。
「…誰か、そこにいるの?」
ごとんごとんと低く重たい音の絶えない列車の一室。
ちいさなプラスチックのケージに入れられたタントミールは、ドアの外から微かに漏れ聞こえる鼻歌に耳をすませた。
人間の声ではない。
「失礼」
わずかに間をおいて、返事が返ってきた。
その声は、昼間見かけた鉄道猫の声だった。
人間の車掌の後ろに控え、きちんと黒いベストを着た姿をはっきり見覚えている。
「ついつい、歌ってしまうのです。お休みのところをお邪魔してしまって申し訳ない」
ぷるる、と鳴きながら言う、その話し方には愛嬌があり、親しみを覚えた。
「いいえ、平気よ。…今日は、眠れなくて」
「列車の旅は、初めてで?」
「何度か、あるわ。でも、こんなに長く乗ったは初めて」
鉄道猫の記憶によれば、彼女の乗った駅は最初から二つ目。
もうすぐ、彼が己の帰るべき場所と定めたあの街へつくことを考えると、確かに長旅だった。
「ねえ。少し、話に付き合ってもらってもよくて?」
「ええ。もちろん」
快く引き受けるその声に偽りなどなさそうで。
タントミールは味気ないケージの壁を見つめながらぽつぽつと話をする。
他愛のない、身の上の話ばかりというのに、彼はずっと聞いていた。
ここにいるよ、と知らせるように、時折相づちをうちながら。
窓から時折差し込む青い光は月光か、それとも明け行く朝か。
重く単調な列車の音に、タントミールが眠りに落ちるまで、鉄道猫はドアの前に座っていた。
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年齢:25。
まだ若いお嬢さん。
タントミールとスキンブルは仲良さそうかなって。
で、馴れ初めみたいな。
タントミールが街へやって来た話でもある。