黒猫の手先から、光が弾けた。
ゴミ捨て場中の視線が彼の手元に集中する。もはや何度も繰り返された手品なのに、黒猫をぐるりと囲んだ猫達はほうっ、と溜息をもらす。
金銀の粉を撒いたような光に、集まった猫達の顔が淡く照らされていた。青や緑や、黄色の目が、次は何が起こるのかと期待を込めて黒猫を見つめる。
注目の的になっている黒猫は、澄ました表情で光りを吹き散らすと、勿体ぶった仕草で両前脚を持ち上げ座り、器用に手先をこすり合わせる。
すると、両手の間から、ぽろり、と何かが落ちた。
一番幼く怖いもの知らずなシラバブがそっと近寄り、前脚でつつく。
「お花だ!」
それはかすみ草の花のような、小さな白い花だった。
すぐ後ろで同じように興味しんしんで覗いていたジェミマへ振りむき、報告するシラバブの小さな頭に、さらにぽろりと花が落ちる。
シラバブは驚いて飛び退き、コリコパットにぶつかった。コリコは反射的に前脚をあげるが、辛うじて叩く事はしなかった。
「見ていて。いくよ」
黒猫の静かな声に、注目が集まる。
「3、2、1!」
掛け声と同時に黒猫がぴょんととび上がると、 小さな花が、今度はとりどりの色をした花が一気に現れて猫達の頭に降りそそぎ、わあっ! と歓声が上がる。
「すごーい!」
「きれい!」
シラバブはぱらぱらと降る花に向かって飛び跳ね、前脚を振るって捕まえようとし、ジェミマは頭に乗った花を落とさないように慎重に首を傾げ、「かわいいかしら」と言って隣に座っていた白猫と笑いあっている。
「ヴィクトリア、すごい、きれいだ!」
「ありがとう。コリコパット。あなたもかわいいわ」
大好きな白猫に心をこめて賛美したつもりのコリコパットは、控えめな微笑みで可愛いと返され、一瞬ぽかんとした後、自分の頭にも花が乗っている事に気付いて慌てて体を振るい、ピンクや水色の花を落とした。
その姿に黒猫は堪え切れず吹きだして、彼のポーカーフェイスが崩れる。すると、同時に小さな花たちも塵のように崩れて消えてしまった。
「ああ、おかしい。コリコが笑わせるから、集中が切れちゃったよ」
「お花は? どこ行っちゃったの?」
前脚でかき集めていた花があっという間に無くなった事に驚いて、シラバブはきょろきょろとあたりを見回している。
「ああ、ごめんね。もう一回、出してみせようか」
「うん!」
この愛らしい仔猫に黒猫は甘い。なにを見せても、素直に喜んでくれるからだろうか。
黒猫は再び前脚を合わせると、ふ、と息を吹きかけ、今度はシラバブの頭に小さな花輪を出現させた。
「わあ! お花のぼうし!」
「ぼうしじゃないわ。冠って言うのよ」
「かんむり!」
したり顔でジェミマが訂正すると、たどたどしくも復唱する。
「かんむり、すごいね!」
「さすがミスター・ミストフェリーズ! 希代のマジシャン!」
ぴくぴくと耳を動かしながら笑う仔猫に黒猫も微笑み返すが、コリコパットが冗談めかした真面目さで称えると、居心地悪そうに座り直し、顔を擦った。
彼こそが最高の天才児、ミスター・ミストフェリーズだというのに、その仕草は実に控えめで大人しく、内気な様子に見えた。