カッカッ、と固いものが屋根を引っ掻く音に眠りを邪魔され、アロンゾは小さく唸りながら前脚で顔を覆う。
太陽を浴びてとろりと転寝をして過ごすよりも、月明かりに踊る方が好きなアロンゾとしては、出来れば、昼過ぎくらいまでは眠っていたい。
月は好きだ。冷たく優しい光は頭をスッキリさせてくれるし、何よりこの白黒の毛皮がより一層美しく見える。
しかし、耳障りな爪音はなかなか止まず、眠気を追い払ってしまった。
仕方なく身を起こし、ぼろぼろの敷物の上で体を伸ばす。
アロンゾの住処は廃車のトランクの中だった。
蓋が中途半端にしまった格好で錆びついて、かえって安全な屋根になってくれている。
しかしその屋根の上を、不埒なカラスが歩き回っているらしかった。
時折嘴を擦る音も聞こえて、いよいよ我慢ならずに飛び出した。
「この、うるさい鳥め!」
地面を蹴ってトランクの上に飛び乗ると、カラスは驚いて飛び退ったが、相手が若い猫とみて侮ったか、嘴を開き、一声鳴いた。
これがマンカストラップやラム・タム・タガーのような大柄な猫なら、飛びつき、なんとかしとめることもできるだろうが、アロンゾには大きすぎる獲物だった。
しかしアロンゾはひるまず、かっ、と口を開いて威嚇音を出す。
「俺の眠りを邪魔するとは、良い度胸じゃないか」
カラスは相手がひるむどころか飛び掛ってきそうな勢いなのを察して、大きな羽を一打ちし、飛び立とうとする。
しかしアロンゾはそれをさせず、その大きく広げた羽に狙いを定めて鋭く前脚を一閃する。
ぎゃあ! と悲鳴を上げ、バランスを崩したカラスはもんどり打って地面に落ち、ばたばたと砂埃をたてて体制を変え、ふらふらと飛び去って行った。
辺りには、緑の艶のある美しい羽が散らばっていた。
「素晴らしい!」
称賛の声を上げ、地面に降りると、なるべく大きく、形のそろった艶の良いものを選んで拾い集める。
彼の愛するミステリアスな雌猫は、こんなプレゼントをなにより妖艶な笑みで喜ぶのだ。
「ああ、愛しのカッサンドラ。君の為なら俺はこんな仕事だって喜んでやるのさ」
うっとりと恋の奴隷を演じるアロンゾは、舞跳ぶ羽屑を吸い込み、くしゃみをした。